司法試験「演習書革命」は、法科大学院制度がなければ起きなかった




法科大学院制度の存在意義が危ぶまれている。適性試験の受験者数(入学有資格受験者)は2011年は7,211人だったが、2015年には3,517人にまで減少。予備試験には優秀な学部生や社会人受験生が集まっているのとは対照的に、法科大学院への進学は完全に敬遠されていることは明らかだ。

一部の弁護士からは、法科大学院廃止論も公然と唱えられていることは、もはや周知の事実。確かに、多額の学費がなければ進学することもできず、最短でも大学卒業後2年(既習者コース)の拘束の後でないと司法試験を受験できないというのは、デメリットの方が大きいという意見は、なかなか反論し難いだろう。

法科大学院でのコミュニケーションで生まれたもの

しかし、あえてメリットを考えてみよう。一番大きいのは、法科大学院で行われていた講義などを通して生まれた「演習書革命」だ。まだ法科大学院の創立期には、演習書というと予備校の本しか存在しなかったと言っていい。その答案例は非常に怪しいものが多く、いわゆる「論証パターン貼り付け」になっているものがほとんどだった。

当時は法学部の講義は司法試験にほとんど活用されておらず、もっぱら予備校に行って勉強することが主だったから、誰も違和感を感じなかった。しかし、法科大学院での講義が行われることで、教授と学生の間にコミュニケーションが発生する頻度は格段に増加した。この中で、教授も学生のつまづくポイントや、思考の問題点などを目の当たりにするようになる。また、新司法試験の問題も年度を追うごとに数も蓄積されていき、学生の対策も深まっていき、的確な解説を求めるニーズも高まった。

そうした中で、ロースクールの双方向型講義を元にしたものや、学生の弱点をピンポイントで突くような書籍の企画が増加していった。特に、日本評論社が出してきた行政法の書籍は非常にクオリティが高く、次世代のスタンダード教科書・演習書としての地位を完全に確立している。特に、以下の2冊は司法試験受験生なら必携だ。

画期的だったゼミ形式の演習書


また、法科大学院でのゼミが再現されているような書籍も表れた。大島義則弁護士の「憲法ガール」「行政法ガール」は代表的なものとして有名だ。

こうした書籍は、法科大学院と新司法試験がなければ決して誕生することはなかった。旧司法試験の頃に比べれば、正しい法学の思考にアクセスしやすくなったことは間違いない。

法科大学院制度は全てが失敗だったかのように語られることが多いが、真摯に法律を勉強をしたいという人に、適切な情報が提供される土台を提供してきたことは確かだろう。